日本人の古くからの考えでは、水は他界からの恵みでした。農耕を育む里人にとって、欠くことのできないものだったからです。山の峰から山肌を流れ、里に至って海へ注ぐ。山中から流れ出た水が集まる海は、もうひとつの他界で、神々の住む世界でした。他界に連なる海水は浄祓力に富むと信じられたため、海水を浴びたのが禊の始まりです。
禊はまた、民族的な行事としても行われています。「浜降り」や「潮かき」、「潮けり」、「潮とり」、「灘のけんか祭り」などの形で各地に残っていますが、勇壮な祭りの形式が多いです。
海から遠いところでは、川で禊をする風習が生まれました。川に海水が満ちて上がってくるという考え方でしょう。
また、井戸も他界に通ずるとの考え方から、井戸水が禊の水として用いられるようになりました。
江戸時代には、伊勢神宮に詣でるときには船で宮川を渡りました。宮川を渡ると神域であるため、「桜の渡し」「柳の渡し」「上条の渡し」のそれぞれの渡船所は、禊を行う神聖な場所でした。宮川の水にすむ年魚は、神事に際して神に供するものとされ江戸時代まで禁漁とされていました。